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| City104|> 中東・北アフリカ地域の宗教と文化 >vol.9
久山宗彦 (くやま むねひこ)
1939年 京都府生まれ。
東北大学大学院修了。ハワイ・イオンド大学名誉博士。
1976〜78年 カイロ大学文学部日本学科客員教授。法政大学教授,
星美学園短期大学長を経て、現在、カリタス女子短期大学学長。法政大学講師。元「イラクの子供たちを救う会」代表。
新共著に「イスラム教徒とキリスト教徒の対話」(北樹出版)がある。
「日本・中東アフリカ文化経済交流会」(JMACES)会長。
日本イラク文化経済協力会規約(NICE Society)会長。
中東・北アフリカ地域の宗教と文化
第9回 『アメリカの「同時多発テロ事件」後に思ったこと』 (その5)
                          −イスラエル

 2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件発生の主因は、その主犯と見なされるオサーマ・ビン・ラーディンのみならず、よく見抜いておられる識者も、イラク問題と並んでまずは「パレスチナ問題の未解決」を逸早く強調したが、目下この問題はますます紛糾し、中東和平はまたしても崩壊の危機に直面している。

 パレスチナ人もユダヤ人も既に何十年と繰り返されてきた衝突・襲撃・爆撃などにはもううんざりしていて、両民族が日常挨拶などで口にしない日はないと言えるアラビア語のサラームやヘブライ語のシャローム、すなわち真の「平和」というものを、両者とも心から希望しているに違いないが,ただし相手方を自分たちの体制下で管理していくなどという遣り方は、今後も両民族とも全く認めるものではないと断定してよかろう。

 さて、私が以前カイロ大学文学部日本学科の客員教授としてエジプトに滞在していた当時、サダート大統領の電撃的なイスラエル訪問があり、それによって両国の対話や和解への道が突如として付けられていくようになったが、この先輩に倣って真の連帯の第一歩を踏み出す勇気あるリーダーが今日のパレスチナ・アラブ・ユダヤ人らのなかから出てくることは考えられないであろうか。

 サダート大統領のあの行動以降、私にはイスラエルと近隣アラブ国間の平和構築も夢ではないのではないかと思えたが、程無く平和の味はまたしても酸っぱくなりはじめ、紆余曲折を経て、現在、パレスチナ人・ユダヤ人間の掛け橋は断絶状況にあるのである。

 ところで、その断絶の克服はあまりにも難解すぎると見られる「パレスチナ問題」について種々の角度から検討されているわけだが、それでもまだ最も重要と思われる「解決の基本姿勢」が関係者間で合意を見ていない。

 イスラエル建国時よりユダヤ人によって威圧され続けているパレスチナ人のことを考えれば、世界の、とりわけ欧米のリーダーはより一層パレスチナ人側に立って助言や判断がなされなければならないのに━このことが極めて困難であれば、両民族は少なくとも同等として捉えられねばならない━これまでの状況を見ていると、かれらはユダヤ人の感性を理解する努力はかなりなしているにもかかわらず、パレスチナ人の感性にはそれと逆比例して冷淡であるのは、あまりにも非情ではないか。これは欧米の報道人にもかなり当て嵌まるのではないか。

 言うまでもないが、パレスチナ人は自国を無くしたことに対する怒り、そして恨みを持ち続けており、更に、自治政府になっても自分たちの軍隊が持てないという屈辱感もかなりあるようだ。

 そしてパレスチナ人が共通して何よりも痛感しているのは、世界の多くの人たちにはまだ自分たち、パレスチナ人の置かれている辛い立場が分かってもらえていないということである。                     


つづく

※久山先生は「イラクの子供たちを救う会(平成11年8月13日に目的を達成し解散)」の代表として約10年間に渡り先頭に立ってNGO活動を推進されました。現在は、日本と中東アフリカ地域の関わりに関心をもつ内外の人々の交流を図る「日本・中東アフリカ文化経済交流会」(JMACES)を設立、毎月1回講演会を行います。
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