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| City104|> 中東・北アフリカ地域の宗教と文化 >vol.1 | ||
久山宗彦 (くやま むねひこ) 1939年 京都府生まれ。 東北大学大学院修了。ハワイ・イオンド大学名誉博士。 1976〜78年 カイロ大学文学部日本学科客員教授。法政大学教授, 星美学園短期大学長を経て、現在、カリタス女子短期大学学長。法政大学講師。元「イラクの子供たちを救う会」代表。 新共著に「イスラム教徒とキリスト教徒の対話」(北樹出版)がある。 「日本・中東アフリカ文化経済交流会」(JMACES)会長。 日本イラク文化経済協力会規約(NICE Society)会長。 |
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中東・北アフリカ地域の宗教と文化 第1回『ハーガ・リッラー』(その1)−エジプト− |
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私が中東・北アフリカ地域と関わるようになったのは、今から25年前のエジプトの地からである。カイロ大学文学部日本学科の客員教授としてエジプトに2年間滞在したのだが、当時3才だった次男までの家族5人にとってのエジプト体験は、ひとりひとりのその後の人生にかなりの影響を及ぼすことになったし、また、エジプト滞在そのものが価値あるものであったと思う。 私以外の家族の者がどんな貴重な体験をしたかについてはいずれ記すとして、私については、18〜19才の頃には一時カトリックの修道会、イエズス会に入会し、神と人たちのために独身を貫いて働いていこうと志した者でもあるので、エジプト人モスレムやミッシーハ(クリスチャン)のアッラーに対する信仰はどんなものであるのか、大きな関心を抱きつつカイロに向かうことになった。 エジプトへの出発前の頃を振り返ってみると、神に対する信頼(信仰)の“実感”ということでは、かなり曖昧模糊としたものであったかと思う。 私がエジプトに出掛けて得た最大の収穫は何であったかと聞かれれば、一方で原始キリスト教の姿を留めるコプトの人たち(最終的にはクリスチャンになったエジプト人の意)とも関わりながら、度々接触することになった、モスレムの場合の恵まれない人たちが発する「ハーガ・リッラー」(日本での常識に沿った訳をつければ「何かものを恵んで下さい」の意となろう)の私への語り掛けを耳にしながら、そのことばに秘められている深い人間的・宗教的意味に感じ入ったことだと答えるであろう。恵まれない人たちが相対している超越的な“アッラー存在の実感”と“アッラーへの徹底した信頼(信仰)”に共感できたことは、私にとって人生最大の収穫であったと言っても過言でなかろう。 カイロ市内では低料金の相乗りタクシーをしばしば活用させてもらったが、メインストリートの交差点などで信号待ちするタクシー運転手や乗客の傍らに乳飲み子を抱いた婦人や6〜7才の子供、そして障害をもった中年紳士らがやってきて、「ハーガ・リッラー」「ハーガ・リッラー」と言いながら手を差し出してくるのである。 「ハーガ・リッラー」の文字通りの意味は「アッラーのためにものを」、すなわち、比較的恵まれた人たちに向かって「アッラーのためにものを返して下さい」と語っているのであるが、生きていくために恵んでほしいという人間の素朴で純な欲求でさえ、それを全面的に理解し満たしてくれるのはすべてアッラーのみであるから、貧しい者の他者への話し掛けや依頼に応ずる反応は、問題解決のための切っ掛けをつくることでアッラーに協力したということになる。 恵まれない人たちの語り掛けに心を動かす者は、大抵はちょっとしたお金をかれらに無言で手渡していたが、普通、イスラム以外の地域で見られる、お金やものを受け取った人たちが提供した者に返す「シュクラン」(ありがとう)という簡単なことばは、アラブ・イスラム諸国で私はこれまで一度も聞いたことがなかった。 恵まれない人たちは、必要なお金やものはアッラーから頂いたのであって、人からではないという捉え方ゆえ、いやしくも恵まれた人に対してこれっぽちも卑屈になる必要はないのである。 恵まれない人たちの神(アッラー)や他人とのこのような関わりを、イスラムの発想が一般にまだよく理解されていない日本の方にお話すると、既述した恵まれない人たちの態度は“何と失礼なこと”と反応なさる方が多い。それは人がお金やものをあげたり受け取ったりする関係は、人間関係以外の何物でもないと見做しておられるからであろう。 |
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※久山先生は「イラクの子供たちを救う会(平成11年8月13日に目的を達成し解散)」の代表として約10年間に渡り先頭に立ってNGO活動を推進されました。現在は、日本と中東アフリカ地域の関わりに関心をもつ内外の人々の交流を図る「日本・中東アフリカ文化経済交流会」(JMACES)を設立、毎月1回講演会を行います。 | ||
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