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| City104|> 中東・北アフリカ地域の宗教と文化 >vol.6
久山宗彦 (くやま むねひこ)
1939年 京都府生まれ。
東北大学大学院修了。ハワイ・イオンド大学名誉博士。
1976〜78年 カイロ大学文学部日本学科客員教授。法政大学教授,
星美学園短期大学長を経て、現在、カリタス女子短期大学学長。法政大学講師。元「イラクの子供たちを救う会」代表。
新共著に「イスラム教徒とキリスト教徒の対話」(北樹出版)がある。
「日本・中東アフリカ文化経済交流会」(JMACES)会長。
日本イラク文化経済協力会規約(NICE Society)会長。
中東・北アフリカ地域の宗教と文化
第6回 『アメリカの「同時多発テロ事件」後に思ったこと』 (その2)
                          −イスラエル

 さて、旧約聖書に基づいたイスラエルの建国は、自分たちの父アブラハム(イブラヒーム)に対して神が約束して下さった地での国造りということになる。旧約聖書によると、アブラハムの息子イサク(勿論かれもユダヤ人の先祖)と、かれとは異母兄弟の関係になるイシュマエル(パレスチナ人の先祖)とは極めて近い間柄であったのに、この兄弟の子孫たちの他者に対する姿勢の大きな違いから、たびたび両者間で殺し合いを生む結果を招いているわけだ。この原因は、他者に徹底的に連帯する者たちこそ神から選ばれた民であるという真の選民思想を誤解し、神の下で人間は出来るだけ平等になっていかなければならぬという根幹を踏み躙っているユダヤ人側にまずあるのではなかろうか。

 創世記に記されているように、ユダヤ人もパレスチナ人もお手本となるアブラハムの神に対する徹底した信頼・信仰は共有しながらも、シオニスト・ユダヤ人と比べて決定的な違いのある、アブラハムの他民族に対する謙虚な配慮を今日のユダヤ人が将来に向けて見習っていくことになれば、ユダヤ人とパレスチナ・アラブ人の敵対関係は徐々にではあるが解消されていくことになろう。
 
 アブラハム一行が現在のイラクのウルから神より約束された地、パレスチナに入って、当地に以前より居住していたカナアン人らとどのように関わっていったのかと言えば、アブラハムらはかれらに充分配慮しながら、この地にあっては外国人としての遠慮気味の謙虚な生活を送っていたことがわかる。アブラハムの高齢の妻、サラはこの地で亡くなったが、妻の小さなお墓のために使うほんの僅かの土地についてでさえ、アブラハムは当地の人たちをあちこち訪ね、了解を得ているのである。アブラハムのこの徹底した謙虚さに対するカナアン人らの反応は、あっちからもこっちからも「ここのよい土地をお使い下さい。」と申し出たということである。

 私の経験によれば、パレスチナ人や中東・北アフリカ地域のアラブ人は、一般に謙虚な姿勢で接しようとする外国人に対しては、心から歓迎してくれる民族だということである。高姿勢でない外国人に対する熱い歓迎振りは、例えばエジプト人が外国人に対しても日常的に使っている「アハラン・ワ・サハラン」や「タハト・アムラク」(いずれも You are welcome の意)ということばなどによく表れていると思う。

 イスラエル国内のパレスチナ人に対するユダヤ人の傲慢さ・高姿勢が解消されていかない限り、そしてまた、何と言ってもその延長線上にあるアメリカ政府の政治・軍事姿勢が変革されない限り、国際テロの恐怖から解放されないのではないかと思うのは、私だけではなかろう。大テロ事件の首謀者を何はさて置き早急に捜し出す努力と同時に、神と善良な市民からは全く歓迎されない傲慢性、そして高姿勢の態度を、この際是非とも変革していってもらいたいものである。

つづく

※久山先生は「イラクの子供たちを救う会(平成11年8月13日に目的を達成し解散)」の代表として約10年間に渡り先頭に立ってNGO活動を推進されました。現在は、日本と中東アフリカ地域の関わりに関心をもつ内外の人々の交流を図る「日本・中東アフリカ文化経済交流会」(JMACES)を設立、毎月1回講演会を行います。
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