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| City104|> 中東・北アフリカ地域の宗教と文化 >vol.3
久山宗彦 (くやま むねひこ)
1939年 京都府生まれ。
東北大学大学院修了。ハワイ・イオンド大学名誉博士。
1976〜78年 カイロ大学文学部日本学科客員教授。法政大学教授,
星美学園短期大学長を経て、現在、カリタス女子短期大学学長。法政大学講師。元「イラクの子供たちを救う会」代表。
新共著に「イスラム教徒とキリスト教徒の対話」(北樹出版)がある。
「日本・中東アフリカ文化経済交流会」(JMACES)会長。
日本イラク文化経済協力会規約(NICE Society)会長。
中東・北アフリカ地域の宗教と文化
第3回『
ハーガ・リッラー(その3)−エジプト−

 私は幼い時からキリスト教に、そして成人してからはイスラームと深く関わってきた。
 キリスト教で語られる神は私たちが生きていくためにすべてをお与えになり、更にご自身まで人類に与え尽くされる方である。クルアーンの「ビスミッラー・アッラフマヌ・アッラヒーム」(慈悲深く慈愛深い神の名によって)に見られるアッラーも、徹底的にお与えになる(アッラフマヌ)、また、ちくりちくりと教育しながら徹底的にお受けになる(アッラヒーム)神である。
 クリスチャンがキリスト・イエスに倣って受肉(incarnation)の、従って他者への思い遣り、他者への徹底した連帯の精神をもって生きていくことを理想としているように、アッラーの姿勢に倣って他者に積極的に喜捨(サダカ)し連帯していくことが何よりも重要であるとイスラームは教えている。

 私はこれまで中東・北アフリカのイスラームの影響の大きい国々を訪れたが、極貧であったり重い障害を持っているためお金やものを乞う人たちが発する「ハーガ・リッラー」(アッラーにものを返して下さい…エジプト)、「サダカ・リッラー」(アッラーにサダカをして下さい…モロッコ)、「フィ・サビール・アッラー」(アッラーに到る道を歩いていって下さい…イラク)という訴えに、無言で応じる人たちをしばしば見掛けたものである。内的・霊的な視点からすれば、アッラーのもとに戻ったお金やものはすべて、直ぐに問題を抱えている人たちに還元されることになる。

 極東の日本はこれまで遠い西洋を種々の面でお手本として成長してきたが、西洋より近い中東地域は、例えば宗教の分野にしても諸宗教・諸宗派が混沌としていて捉えられないと見做し、一般に等閑に視する傾向が大であった。しかし、そのような態度には大きな手落ちがあったと私は思う。人間にとって根本的に最も重要な、神(アッラー)と自分と他人との連帯関係を明確にしてくれるのは、西洋というよりも中東から誕生した旧約・新約、そしてクルアーンの宗教とそこに生きる人々の姿ではなかろうか。

 先日、テレビの「ニュースステーション」で日本の若い人たちの「思い遣り」についてのアンケート結果を見たが、他者への思い遣りを感じながら暮らしている人が5パーセント程度であったのはほぼ予想通りであったものの、同時に日本の教育の根本にある欠陥を痛感した次第である。


続く

※久山先生は「イラクの子供たちを救う会(平成11年8月13日に目的を達成し解散)」の代表として約10年間に渡り先頭に立ってNGO活動を推進されました。現在は、日本と中東アフリカ地域の関わりに関心をもつ内外の人々の交流を図る「日本・中東アフリカ文化経済交流会」(JMACES)を設立、毎月1回講演会を行います。
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