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| City104|> 中東・北アフリカ地域の宗教と文化 >vol.2
久山宗彦 (くやま むねひこ)
1939年 京都府生まれ。
東北大学大学院修了。ハワイ・イオンド大学名誉博士。
1976〜78年 カイロ大学文学部日本学科客員教授。法政大学教授,
星美学園短期大学長を経て、現在、カリタス女子短期大学学長。法政大学講師。元「イラクの子供たちを救う会」代表。
新共著に「イスラム教徒とキリスト教徒の対話」(北樹出版)がある。
「日本・中東アフリカ文化経済交流会」(JMACES)会長。
日本イラク文化経済協力会規約(NICE Society)会長。
中東・北アフリカ地域の宗教と文化
第2回『
ハーガ・リッラー(その2)−エジプト−

 恵まれない人の「ハーガ・リッラー」(「何かものを恵んで下さい」という、この語の日本的理解に対応するエジプト・イスラーム世界で使われることばは、「アッラー(神)にものを返して下さい」という意味である)という頼みに応じた人のお金やものは、目に見えるかたちでは恵まれない方の手に渡ることになるが、精神的で霊的な、従って極めて奥深い本質的な視点から見ると、お金やものはまずはアッラーのもとに戻され、そしてそれらをアッラーはどこかの国の独裁者や王のように独り占めにするのとは全く正反対に、即座に当の貧しい人たちにすべて還元なさるのである。こうしてお金やものを受け取った貧しい人たちはアッラーに心から感謝することになる。

 ところで、恵まれた人でもタクシー代しか持たないで乗車していたり、あるいは、利己心から小銭でさえ手渡す気になれない場合がある。その時には「ハーガ・リッラー」の語り掛けに対して「アッラッラー」(日本語の常識的な訳では「あげるものがありません」ということになろうが、文字通りの意味は「アッラーに」、すなわち「アッラーに頼みなさい」である)ということばで返答するのがエジプト人モスレムの習わしのようである。このことは、当時カイロ大学日本学科の講師であったスルターン氏から教わったのであるが、覚え立てのこのことばをその後、実際に使ってみると、私自身ことばの威力にびっくりしてしまった。乳飲み子を抱き抱えて物乞いをしていた――この言い方は極めて日本的発想だ――母親はこの「アッラッラー」を聞くや否や、無言のうちに体をくるりと回して立ち去っていった。

 「ハーガ・リッラー」「アッラッラー」の日本的解釈である「何かものを恵んで下さい」「あげるものがありません」といった問答は、超越的存在との関わりなど考えられない人間自身の欲求そのもの、人間自身の返答そのものであると、日本では恐らく99パーセントの方がかように見做すのであろうが、モスレムの視点はと言えば、すべては超越的だが絶対的な慈悲・慈愛の方(=すべてを与え尽くされる方)としてのアッラーの御業(みわざ)に徹底した信頼を置くのである。思慮深いクリスチャンも恐らく同じ結論に達するであろう。そして、これにアッラーは常に答えて下さるのである。

 エジプトでよく耳にする「ハーガ・リッラー」や「アッラッラー」について記してきたが、既述した通り、頂いた方がお金やものを受け取ったことに対してアッラーに感謝するだけでなく、提供した人もアッラーが働かれることに協力出来たのであるから、そのような心の働きを起こさせてくれたアッラーに、かれらと同様感謝するのである。


続く

※久山先生は「イラクの子供たちを救う会(平成11年8月13日に目的を達成し解散)」の代表として約10年間に渡り先頭に立ってNGO活動を推進されました。現在は、日本と中東アフリカ地域の関わりに関心をもつ内外の人々の交流を図る「日本・中東アフリカ文化経済交流会」(JMACES)を設立、毎月1回講演会を行います。
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