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| City104|> 中東・北アフリカ地域の宗教と文化 >vol.12
久山宗彦 (くやま むねひこ)
1939年 京都府生まれ。
東北大学大学院修了。ハワイ・イオンド大学名誉博士。
1976〜78年 カイロ大学文学部日本学科客員教授。法政大学教授,
星美学園短期大学長を経て、現在、カリタス女子短期大学学長。法政大学講師。元「イラクの子供たちを救う会」代表。
新共著に「イスラム教徒とキリスト教徒の対話」(北樹出版)がある。
「日本・中東アフリカ文化経済交流会」(JMACES)会長。
日本イラク文化経済協力会規約(NICE Society)会長。
中東・北アフリカ地域の宗教と文化
第12回 『サウディアラビアと日本の文化交流』(その2)
                      −サウディアラビア−

2002年1月29日

およそ半年後には原籍のカイロ大学文学部日本学科に戻って教鞭をとることになっているリヤード在住のDr.カラム・ハリール氏宅の朝は忙しい。まず愛息ナイルちゃんをカラム氏が学校に送り届け、8時に日本大使館の仕事に出かけるナイルちゃんの母、幸代さんの出発直前に戻ってきたカラム氏は、私と一緒にサウディアラビア独特のパンとフレッシュなフルーツの朝食をとった。

日本大使館の運転手はかっきり8時に幸代さんを迎えに来たが、彼女は慣れたもので、ぱっと黒い長いマントのアバヤをかぶって出かけていった。

それから数十分後、カラム氏の車で勤め先のアラビア半島初の綜合大学、日本ならば東大にあたるキング・サウード大学(ジャーミア・マリク・サウード)に向かった。リヤードにはイスラーム神学・法学、アラビア文学等で有名なイマーム・ムハンマド・イブン・サウード・イスラーム大学など、他に七つの大学があるという。東京でもニューヨークでもカイロでも、朝のラッシュ時の時間帯と言えば、メインストリートならばせかせかと目的地に向かう大勢の人を目の当たりにするものだが、首都であるリヤード中心部を走るカラム氏の車からは、まず歩く人の姿はほとんど見られなかった。

キング・サウード大学の表玄関は分厚い聖典、クルアーンが開けられた格好につくられている。中央部はアーチ型にくりぬかれているが、ここでもそこを通り抜けて大学に入っていく人の姿は、毎日のようにこの大学を訪ねたが、一度も見掛けたことがなかった。
外では男女を徹底的に峻別するサウディアラビアにおいては言うまでもないことだが、5万人弱の学生を擁するこの大学には、女性の先生も女子学生も、そしてまた女性の職員も1人としていない。

カラム氏にキング・サウード大学の女子部はどこかにあるのか、あるとしたら、そこを外からだけでも見てみたいと尋ねてみると、「私は永年リヤードで暮らしていますが、そしてリヤードの旧市街がある西部に女子部はあるということですが、そこにはまだ一度も出かけたことがないし、また訪ねてみる気もありません」と、いつもは快活に情報を提供してくれるかれにしてはかなり押さえ気味の淡々とした反応が返ってきた。後で大学関係者から聞いた話によると、大学女子部と言っても大学レベルのセンターであって、25年ほど前に出来たまだ若い施設だそうだ。ここでも男性の場合と視点は同じで、女子学生は女性の先生から教わるのである。専門によっては男の先生に教授してもらわざるをえない場合もあるようだが、その時は別の密室で語る男性教授の講義を、女子学生はテレビを通して聞くことになるのである。

話は少々脱線するが、カラム氏によれば、もうかなり以前よりリヤードの日本人学校男女生徒と主としてその母親たちの、カラム氏が学科主任で他にDr.シハーブ、岩元・中村両先生のおられるキング・サウード大学言語翻訳学部日本語科への訪問許可を、日本人学校長を通して大学に要請しておられたが、大学ではその許可をなかなかおろさなかったという。問題になったのは勿論、徹底した男女峻別が当然のこの国の男性のための大学に、何人もの母親や既に体の成育した女生徒が入構するなどということは出来ない相談だということである。

ところがそれが一転して許可がおり、私がキング・サウード大学をはじめて訪ねた日の四日前にその目的は果たされたという。数度目の言語翻訳学部訪問時に、大学管理の責任者である南部出身の日焼けしたムハンマド・ビン・アマーン・ビン・イブラーヒーム・アンナーセルさんに直接お会いする機会があったが、かれは知恵を絞って学生・教職員がほとんど帰った木曜日の午後の来校許可を出したということであった。

イスラーム世界がやや不案内な方のために少々コメントさせていただくが、イスラーム国では金曜日が祝日(休日)であるから、その前の木曜日は一般の国での土曜日のように半日の仕事・勉強になるのである。従って、キング・サウード大学でも木曜の午後は一般に講義はないし、学内にはほとんど誰もいなくなるようである。この時間帯を見計らって、やっと、日本人学校関係者男女のキング・サウード大学訪問は実現したのである。

つづく

※久山先生は「イラクの子供たちを救う会(平成11年8月13日に目的を達成し解散)」の代表として約10年間に渡り先頭に立ってNGO活動を推進されました。現在は、日本と中東アフリカ地域の関わりに関心をもつ内外の人々の交流を図る「日本・中東アフリカ文化経済交流会」(JMACES)を設立、毎月1回講演会を行います。
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